株式会社福祉の里
代表取締役社長 矢吹 華絵
今回のインタビューでは、「株式会社 福祉の里」を創業者から引き継いだ後に、グループ入りを決められたオーナー社長である矢吹社長に、当時の心境や社内の状況、また承継後の今のお気持ちについて語っていただきました。
M&A(グループ入り)の背景についてお聞かせください。矢吹社長ご自身が、自社をセントケア・グループへ託すと決めた時のきっかけは何だったのでしょうか。
そもそも、私がグループ入りをすると決めた最大の理由は後継者への不安でした。父や社員たちが一生懸命守ってきた会社は存続させたいという強い思いがありました。
当時、うちの会社はありがたいことに価値が上がっており、株価も高くなっていました。そうなると、「意欲のある従業員が買い取れるような金額」ではなくなっていたのです。オーナー会社を次につなげるのは、決して簡単なことではないと痛感しました。そんな時、安藤会長(株式会社 福祉の街の創業者)から「グループに入った方が絶対いい」と声をかけていただき、村上会長や当時の役員の方々と直接お会いする中で、ここなら会社を未来へ繋いでいけると感じ、決断しました。
グループ入りした後、現場や経営スタイルにはどのような変化がありましたか?
一緒になるまでの過程も大変でしたが、グループ入りした後の方がさらに大変でした(笑)。一番の変化はこれまでの文化になかった「目標設定」です。
オーナー時代は「一生懸命やっていれば数字は後からついてくる」という考えが強く、今月の着地予測すら立てたことがない「出たとこ勝負」の経営でした。それが一転、予実管理や適正な利益の確保も指標のひとつになり、数字を見る習慣のなかった現場からは不満が出たりしました。
私自身も心の中で葛藤はありましたが、「社員が安心して働き続けられる会社を作る」という目的のために、数字に向き合う必要性を自分に言い聞かせ、メッセージを発信し続けました。
その大変さを乗り越えて、今はどのように感じていらっしゃいますか?M&Aをして「良かった」と思える点はどこでしょうか。
冷静に振り返ると、良かった点はたくさんあります。
まず、「経営の基準」が明確になったことです。一社だけで経営していると、何が正解で、どれくらいの利益率が適正なのか分かりません。グループ内の他社と比較することで、「他ができるならうちもできるはずだ」という可能性や目標が見えるようになりました。
次に、「孤独からの解放」です。オーナー時代は相談相手がいませんでしたが、今は業界の大先輩や同じ苦労をしているであろうグループ会社の社長たちにもいつでも相談できます。介護の現場を熟知しているプロたちが周りにいる安心感は、オーナー企業では得られないものです。ホールディングからサービス品質や集客・採用の面など様々なサポートをいただける点もありがたいです。
そして何より、待遇改善です。利益が出るようになったことで、グループの基準を参考にさまざまな手当を引き上げたり、しっかりと社員に還元できるようになりました。
社員の方々の反応には、変化はありましたか?
管理職レベルでは、数字がついてくることで「自分たちのやってきたことが成果として見える」という成功体験に繋がり、徐々に前向きな変化が出ています。
もちろん、古くからいる社員からは「お父さん(創業者)の時は良かった」と言われることもありますが、グループの規模を活かした具体的な待遇改善を実現していくことで、会社としての安定性を実感してもらえているはずです。
これからM&Aや事業承継を検討している他のオーナー経営者の方へ、メッセージをお願いします。
自分で全てを決められる「自由」はオーナーの醍醐味ですが、それには常に「大きなリスク」が伴います。自分一人の逃げ切りを考えるならまだしも、社員やその家族、地域を守ることを一番に考えるなら、安定した基盤を持つグループに入ることは、リスクを最小化する賢明な選択だと思います。
「自由がなくなる」と心配されるかもしれませんが、セントケアは想像以上に社長の裁量を尊重してくれます。私自身、今でも経営者としての感覚を失っていませんし、むしろ新しい学びの連続です。
最後に、矢吹社長にとっての「統合(PMI)」とは。
単なる吸収(統一)ではなく、それぞれの会社の良さを残しながら一緒にやっていく「統合」こそが重要だと感じています。
確かに、やり取りの中でイラっとすることもあるかもしれません(笑)。でも、それは相手が本気でこちらの会社を良くしようと考えてくれている裏返しでもありますから。社員に社長の座を譲れる環境が整った今、あの時の決断は間違っていなかったと断言できます。