日常レポート

2009.10.29

無題

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『 生命は 』  吉野 弘

生命は 自分自身で完結できないように
つくられているらしい

花も めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で 虫や風が訪れて めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて そのなかに欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分 他者の総和

しかし 互いに 欠如を満たすなどとは
知りもせず 知らされもせず

ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄

ときに うとましく思えることさも 許されている間柄
そのように 世界がゆるやかに 構成されているのは なぜ?

花が咲いている 

すぐ近くまで 虻の姿をした他者が 
光りをまとって飛んできている

私も あるとき 
誰かのための 虻だったろう

あなたも あるとき
私のための 

風だったかもしれない

【吉野 弘(1926年(大正15年)1月16日 – )詩人】

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